「朝起きると、なんだか顎が痛い…」 「食事をしようとすると、アゴがカクカク鳴って痛む」 「痛くて口が大きく開けられない」
そんな「顎の痛み」、本当につらいですよね。
もしかして、「きっと噛み合わせが悪いからだ」と思って、歯医者さんで歯を削ったり、矯正したりする相談をしようと考えていませんか?
でも、ちょっと待ってください!
その顎の痛み、原因は「噛み合わせ」ではないかもしれません。 この記事では、なぜあなたの顎が痛むのか、その「本当の原因」と、まず何をすべきかについて、専門的な研究の歴史から分かりやすく解説します。
結論:あなたの顎が痛い「本当の原因」とは?
かつては、顎周辺の痛みは「噛み合わせのズレ」が原因だと強く信じられていた時代がありました 。
しかし、100年近くにわたる研究の結果、現在、世界の専門家たちの間では「原因は一つではない」というのが常識です 。
あなたの「顎の痛み」は、以下の3つが複雑に絡み合って起きている可能性が非常に高いのです。
- 精神的な緊張(ストレスや不安)
- 無意識のクセ(食いしばり・歯ぎしり)
- あなたの体質や生活環境、ケガなど
専門的にはこれを「生物心理社会モデル」と呼びます 。 「噛み合わせ」という歯の問題だけでなく、心(心理)と生活(社会)が、あなたの体(生物)に影響を与えている、という考え方です。
なぜ「噛み合わせが悪いから」とは言えないの?
「でも、歯医者さんで噛み合わせが原因だって言われたけど…」 そう思う方もいるかもしれません。なぜ「噛み合わせ」だけが原因ではないと言えるのでしょうか。それには、歴史的に「時代とともに変わった『常識』」が大きく関係してます。
1. かつての『常識』①:「噛み合わせが低いと顎が痛む」説
1930年代、ある耳鼻科のお医者さん(Costen医師)が、「歯がなかったり、義歯が低かったり(=噛み合わせが低い)せいで、耳鳴りや顎の痛みが起きる」という説を発表しました 。 これは当時画期的で、「Costen症候群」と呼ばれ、一気に広まりました 。
しかし、その後の研究で、彼の唱えた理論(解剖学的な根拠)には誤りがあることが判明しました 。
2. かつての『常識』②:「アゴの痛みは軟骨のズレ」説
1980年代になると、MRIなどの画像診断が発達し、アゴの関節の中にあるクッション(関節円板)の「ズレ」が見えるようになりました 。 「この“ズレ”が痛みの原因だ!」と考えられ、ズレを治す手術や、人工の軟骨に入れ替える手術が流行しました 。
しかしその結果、人工軟骨が体内で壊れて、激しい痛みやアゴの骨が破壊されるといった、深刻な副作用が多発したのです 。
さらに決定的な事実が判明します。
痛くもかゆくもない、健康な人のアゴをMRIで調べたところ、なんと約3人に1人は、この軟骨がズレていたのです 。
つまり、「軟骨がズレていること」と「痛み」は、必ずしもイコールではなかったのです。
じゃあ、痛みの正体は? アゴの「筋肉」の悲鳴かも!
では、噛み合わせでも軟骨のズレでもないとすれば、いったい「何」が痛んでいるのでしょうか?
その答えは「筋肉」です。
1950年代に、アゴが痛いと訴える患者さんをSchwartz医師が詳しく調べたところ、アゴの関節(骨)にX線で異常が見つかったのは、ごくわずか(3%未満)でした 。 彼は、痛みの正体は関節の骨ではなく、「噛む筋肉(咀嚼筋)の痙攣(けいれん)」、つまりアゴの「こむら返り」や「ひどい筋肉痛」だと突き止めました 。
なぜ筋肉がそんなに痛くなるの? → ストレスと食いしばり
さらに1960年代、Laskin医師がこの「筋肉痛説」を深掘りします 。 彼は、アゴが痛い患者さんの多くに、「無意識の食いしばりや歯ぎしり」のクセがあることを発見しました 。
そして、そのクセを引き起こす最大の引き金が、「精神的な緊張(ストレス)」であることを突き止めます 。
【アゴが痛くなる悪循環】
1. 仕事や人間関係でストレスを感じる
2. 寝ている間や集中している時に、無意識に歯を食いしばる
3. 噛む筋肉が休む暇なく働き続け、疲労困憊(ひろうこんぱい)になる
4. 限界を超えた筋肉が痙攣し、「痛み」として悲鳴を上げる
これが、あなたの顎の痛みを引き起こしている「筋肉痛」のメカニズムかもしれません。
💡【重要】顎が痛い時、まず何をすべきか?(痛みの治し方)
これまでの歴史から、私たちが学ぶべき最も重要な教訓があります。 もし今、あなたの顎が痛むなら、以下の「NG行動」と「OK行動」を覚えておいてください。
❌ やってはいけないNG行動
- いきなり歯を削る・被せ物を変える・矯正を始めること 噛み合わせが痛みの主な原因である可能性は低いことが分かっています 。歯を削ったり、高額な矯正をしたり、「元に戻せない治療」にいきなり飛びつくのは絶対にやめましょう 。
⭕️ まず試すべきOK行動
治療の基本は、「元に戻せる(可逆的)」安全な方法から始めることです 。
- アゴを休ませる(セルフケア)
- 硬い食べ物(おせんべい、ナッツ、硬い肉など)を避ける 。
- ガムを噛まない。
- 痛い時はおしゃべりを控えめにする。
- (もし痛みが強ければ)冷やすか、逆に温めて筋肉の血流を良くする。
- 「クセ」に気づく(行動変容)
- 日中、何かに集中している時、無意識に歯を食いしばっていませんか?
- 「あ、今噛んでるかも」と気づいたら、**「唇は閉じて、歯は離す」**を意識して、フッと力を抜きましょう。
- ストレスを管理する
- あなたがリラックスできる時間(お風呂、趣味、運動など)を意識的に作りましょう 。
- 専門家に相談する
- 痛みが続く、口が開きにくいなどの症状があれば、自己判断せず専門家に相談してください。
- その際は、あなたの痛みが「筋肉」から来ているのか、「関節」から来ているのか、あるいは両方なのかをしっかり診断してもらうことが大切です 。
- 診断に基づき、アゴの負担を減らすマウスピース(スプリント) や、筋肉のストレッチ 、お薬など、あなたに合った安全な治療法を提案してくれるはずです。
顎の痛みは、一つの原因で起きているわけではありません。だからこそ、慌てて歯を削るような後戻りできない治療を選ばず、まずはご自身の体と心、生活習慣を見直すことから始めてみてください。
